「カンボジア」


「はあ!? なんでカンボジア!?」


理解が追いつかなくて、あたしは、ひっくり返った声を張り上げた。


大地はますます複雑そうな顔で苦笑いをする。


「カンボジアの子どもたちの、教育と福祉に協力したいってさ。それが自分の天命だって、ある日とつぜん気づいたんだと。で、サーッと渡航しちゃったんだよ」


「なにそれ!? たしかに立派な天命だとは思うけど、もうちょっと時期を待てなかったの!?」


「それから一ヶ月後に、『店はすべて任せた。お前を信じてる』って手紙が一通、ネパールから届いた」


「カンボジアじゃなかったの!?」


「一ヵ月の間に、天命の場所が微妙に変更になったらしい」


「言っちゃなんだけどその先輩、頭おかしいんじゃない!?」


で、柿崎さんは店の全責任、押し付けられちゃったわけ?


そりゃ悩みもするよ!


「放り投げりゃいいじゃん! そんな店!」


「男同士の友情だぞ? 裏切れるかよ」


「先に裏切ったのは先輩じゃん!」


「兄貴にとっては、親友が自分を信じて任せてくれた店だ。守りきる使命感に燃えてんだよ」