森の奥の沼の話【短編】

あの遠い日の事を僕はまた思い出していた


それはちょうどマウンテンバイクで森の近くまで来たから


あの時、僕は花を摘みには戻らなかった


摘みたくなかったんだ


彼女と会った印を残しておきたかったから


今、振り返ってもあの時の事は本当に現実だったのかと思う事もある


ただ、僕の手の甲に今でもほんの少し残る傷痕を見るとそう信じるしかないと思った






「お父さーん!早く行かないと遅くなるよー」


「ああ、すぐ行くさ」


僕はマウンテンバイクを走らせあっという間に息子に追い付く


「お父さん、いつもここ通る時にボーッとするよね?」


「ああ、そうだな」


「それよりさ、僕、本当はサッカーやりたいんだよ。お父さんから言ってよ」


「そりゃ無理だよ。君のおじいちゃんは子供と出来なかった事を孫とやるんだって君が生まれる前から言ってたんだから」


「なんだよ、それ」


「いいじゃないか、お父さんだって、君とキャッチボール出来るのは最高に嬉しいよ」








そんな事を話ながら僕たちは先を急いだ







後から妻もお弁当をもって来るだろう


余談だけど、妻に初めて会った時、不思議とどこかで会った様な気がしたんだ


その事を伝えたら


彼女は随分と僕より年下の癖に


「君、私を口説いてる?」


って、僕の事を君って呼んだんだ


そしてね


何て言ったと思う?


『それにしても…キャンディーがずっと入っているようなほっぺね』


って僕に紫色のキャンディーをくれたんだ









願えば会えるんだね…






君は気づいているのかな?