14時過ぎに目が覚めた私は、着替えてから遅めの昼食をとり薬を飲んだ。


「……下がった」


体はまだ気だるいが、体温計には37.4℃と表示されている。


安心した私はコップ1杯の水を飲んでから、再び布団に入る。携帯を操作し、柚から届いていたメールに返信した。


窓の外では雪がちらちらと舞っている。


彪くんはこの雪の中、また好きな人を探し回っているのだろうか。


私は、そんな予想ばかり。彪くんが制服を着ているのを一度も見ていないからだ。


高校3年生の彪くんは、もう学校に行く必要はないのだろうと思う。勝手な予想だから、私服登校の高校という線もある。


私が知りたかった彪くんのプロフィールなんかは、今となっては特に知りたいと思えないものだった。


1対1で接して見える美空彪という人を頭の中に刻むほうが、何倍も有意義なのだ。


どうして帰る家がないのかは未だにわからないまま。


たぶん、帰りたくない家という意味なんだろうと思う。それもまた理由はわからないが、知りすぎるのはよくない。


私は寝泊まりできる場所をお金とご飯を引き替えに、提供しているだけ。


一線を引くことで、疑問は芽生えたときから枯れていく。


彪くんに相傘を提案した日の私は本当に、欲張りすぎた。


告白する予定を白紙に戻しても恋情は消えてなくならず、初めて会ったときよりも多く、言葉を交わしたくて。彪くんと並んで歩いてみたくて。取るに足りない思い出でいいから、好きな人と共有した時間が欲しかった。


折り畳み傘だけ貸せばよかったのかもしれない、と。あの日後悔しつつあったそれは、今となっては後悔の欠片さえ見当たらない。


毎日が楽しいのだ、とても。
今の私は彪くんの頼みを受け入れてよかったと思っている。


なにが起きようと、うろたえることも気を落とすこともないように、しっかりと心構えをしたみたいに。いつ来るかわからないお別れの日を迎える心構えだって初めからあった。


告白はしなくとも、さよならを言える。

もう会えなくなっても、涙の別れをしなくて済む。


だから今、この家にひとりでいることを寂しく感じるのは、風邪のせいなのだと思う。