雪の果ての花便り





彼に出逢ったのは去年の冬。雪が舞う金曜日の夜だった。

短大卒業を間近に控え、私と柚は卒業パーティーとは別に、ふたりだけのささやかなお祝いを計画していた。


豪華なディナーコースを食べようとふたりで決め、柚が店を探し予約までしてくれた。


カフェレストラン〈ZInnIA〉は、フランスの邸宅をイメージした優雅なお店だった。


〈ZInnIA〉とはフランス語でジニアを意味し、“絆”や“幸福”という花言葉があるのだと柚が教えてくれたときは、無性に嬉しくなった。


コース料理を食べたのは、講義でテーブルマナー演習を行って以来。就職活動から解放されたことも相まって、私と柚は誰から見ても浮き立っていたと思う。


柚と笑い合っていたのを覚えている。すごく楽しかった。特別な日だと思った。


特別な日がさらに、今でも忘れられない日になる。その前兆を迎えたのは、3品から1品選べたドルチェを食べ終わったときだった。


ドルチェの名前だけは覚えている。柚は『ストロベリートリオ』、私は『コーヒーのクリームブリュレ~バニラのアイスクリームと共に~』を選んだ。


おいしい、おいしい、と食べ終わるまで言い続けていた私たちの席にギャルソンがやってきた。


「少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか」


ギャルソンは私に向かって言っていた。何事かと思った私が訳もわからないまま「はい」と答えれば、

「ありがとうございます」

とギャルソンは自身の背後を見遣り、私は視界に入った白い制服に目を奪われた。少しくたびれたそれを着る彼は俯き加減に歩み寄ってくると、惑うように私をその瞳に映した。


言いようなくきれいな男性だった。それは後日、単に私の好みだったと柚に指摘されてわかるのだが。