雪の果ての花便り



エレベーターを先に降りた私は数歩足を進めてから「そうだね」と認める。けれどそれはひとり言になり、振り返ると柚は立ち止まって携帯を凝視していた。


先ほど言っていた〈ZInnIA〉のギャルソンとメールでもしているのかな、と思った瞬間に勢いよく顔を上げた柚と視線がぶつかる。


「さんじゃなくてくんだった!!」

「……柚、言ってる意味がわからない」

「だから美空さんじゃなくて美空くんだった! ほら!!」


柚は大股で距離を縮めて私の眼前に携帯を突き出してきた。あまりにも近付けられたので頭を少し後ろに引く。


前半のラブコールらしき文面は読み飛ばし、《ところで》の続きを黙読する。《なんで美空のこと、さん付けしてんの? 柚のほうが年上なのに》


「あたしらのほうが年上だってこと!? は!? 今まで誰もそんなこと……っどう見ても美空さんのほうが年上か同い年じゃんね!?」

「……私たちが勝手に年上だと思い込んでたってことでしょう」

「少しは驚きなさいよ! 年下だなんて、アイツと一緒じゃん! あたしはアンタにトラウマを克服してほしいのにっ! ちょっと待って今いくつ年下か聞くから!」

「いいよ柚。何歳だろうと関係ない」


メールを打ち出した柚に背を向けると、すぐさま隣に並ばれる。


「あたしはアンタが美空さんに告白して、幸せになってくれないと嫌なの!」

「柚がそう言ってくれるのはすごく嬉しいけど、なにかしてくれる必要はもうないんだよ」

「ただのお節介に感じるだろうけど、あたしは本気なの!」

「そういう意味じゃなくて――…」


会社から出ると、空から音もなくさらさらとした雪まじりの雨が降っていた。