雪の果ての花便り





彪くんと暮らし始め、明後日で2週間を迎える金曜日の今日、柚はより強固にした意思の第一波を打つと決めていたらしく、おかげで私の決心も鈍らずに済んだ。


「〈ZInnIA〉のギャルソンと連絡先を交換したあたしに、死角はない」


隣でふんぞり返る柚は携帯を胸の前にかざしている。理由はあえて訊かないでおいた。


「ほら。帰る準備ができたなら行くよ」

「できていても、私は〈ZinnIA〉には行かないよ」

「引きずってでも連れて行けってことね」

「行かないってば」


腰を上げた私は残っている社員たちに「お先に失礼します」と声をかけ、柚に視線をやってから出入り口へ向かう。


柚は黙ってついてきながら、やがて私の背中にぽつりと感想を投げかける。


「あんたって本当に強情」


私は強情なのではない。臆病なだけだ。


「おいしいものを食べて待っていればいいだけじゃん。美空さんがフランスに行くことを知る前はずっとそうしてきたのに、避けてるでしょ」


エレベーターに乗り込むなり、柚は言う。私はストールを首に巻き直し、コートのポケットに手を突っ込む。


「ねえ、どうしてちゃんと美空さんに言おうとしないの。確かにフランスに行くことを引き止めるのは無理だけど、気持ちを伝えることとは別でしょう」

「柚。私はすごく寂しいとも思ってるけど、応援したいのも本当なの。どっちを選んでもうそにはならない」

「だからって、どうしてなにも言わずに見送る道を選ぶかな。そこは寂しいけど好きだから応援してますってならない?」

「多いよ。私は応援するだけで精いっぱい。それに、寂しいとか好きだって伝えてもなにも変わらない」

「やけに言い切るね。ここ最近のあんたは美空さんって口にしないけど、なんかあったの」