驚きを滲ませていた彪くんは何度か瞬きをして、声もなく笑う。私の予想は当たっていたらしい。
彪くんが居候を始めて1週間と数日。その子には、会えたのだろうか。
「おねーさんが今考えていること、当てようか」
「わかるんですか」
「訊いてみたいけど、訊いたら自分も話さなきゃいけないかもしれないって思ってる」
「当たりです。すごいですね」
「おねーさんはすごく慎重な人だよね。計画的っていうか、十手先まで考えてそうなイメージ」
体勢を横向きに変えた彪くんの声は、直に腹部の底へ響くようだった。
「……間違えたくないんです」
「なにを?」
「わからないけど、ただ、失敗したり後悔することが、すごく苦手なんです」
失敗したことも、後悔したことも、数えきれないほどある。だから私は確実なものが好き。公算が大きくて、絶対的に有利で、実現する見込みのあるものしか選ばない。
成否が確かでないことにあえてチャレンジするなんて、そんな冒険心は持ち合わせていなかった。
ふつうに、平凡に、おだやかに。自分に見合った生き方をしているつもりなのに。
怖いという感情がいつも心臓の裏側で、私を見張っている。
「……おねーさんは俺を居候させたこと、後悔するかな」
瞼を閉じた彪くんは、すり寄るように私の下腹部へ額をくっ付ける。
「しませんよ……しないための努力はしますから」
「それって苦しい? もうどうでもいいとか、別の道があるとか、途中で投げ出したくならない?」
「どうして彪くんがそんなことを気にするんですか」
腰辺りの服を掴まれ、行き場を失っていた私の手は肌色を撫でる。
「俺の努力はきっと、悪あがきにしかならないから」
彪くんの頬は柔らかかったけれど、思っていたよりも、温かくはなかった。



