手を伸ばし箱の角をそっと撫でる。
「おねーさん?」
ドアの向こうから顔を覗かせた彪くんは、
「なにしてるの。風邪引くよ」
と困ったように微笑んだ。
柚がこの状況を知ったら、顔を真っ赤にして怒るだろう。
「ほら。寒がりのくせにずっとキッチンにいるから」
暖房機の前で震える私にブランケットをかけてくれた彪くんは、隣にあぐらを掻いた。
一瞬だけ肩をぶつけられたので、私も左肩を彪くんにぶつけた。しばらくふたりで振り子のような真似をする。
「おねーさんって、」
「……」
「なんでもない」
「気になります」
「だよね」
とん、と今度は肩に寄り掛かられる。
私はまた感じた寒さにぶるっと身震いをひとつ。彪くんが視線をよこしたのがわかり、目を合わせることなく「なんですか」と尋ねる。
「こっち見て」
「……、嫌ですよ」
「どうして」
だって肩と肩が触れ合っている距離で、彪くんを見ることになる。たぶん、私はすでに緊張している。
体の震えが止まったのと引き換えに、張り詰めた心が体の芯を焦がしていた。
「やっぱり追加料金のシステムはやめましょう」
前を向いたまま告げると、数秒の沈黙のあと「どうして」と訊かれる。
「最初にそう決めたじゃないですか。彪くんはこの家にいた日数分だけのお金と、朝晩ご飯を作るだけでいいって」
「そうだけど……せっかく収入が増えるのに」
「お金欲しさに追加料金を発生させたわけじゃないです」
彪くんは安易に近づき過ぎなのだ。
もらえるお金が増えるならばと、強引にでも理由を作らなければ彪くんと関わることができなかった。



