車中泊二日目の夜。

 鳥井さんはひと気のない路地に車をとめて、助手席に座るおれに夕飯代わりのおにぎりを渡すと、「調教ねえ」と唸りながら、こっちを観察してくる。調教の意味があんまり分かっていないおれだけど、たぶんおれにとって良い話じゃない。
 おれはおにぎりの封を開けながら、ちらちらっと鳥井さんを見やった。

 突然、強引に顎を掴まれる。
 驚いて、おにぎりを落としてしまった。
 無理やり鳥井さんの方を向かされたことで、首から小さな音が鳴る。痛い、すごく痛いんだけど。

「あー……整った顔だし中性的な顔立ちだから、イケねえことはねえんだろうが」

 やっぱり男は趣味じゃない、と鳥井さん。
 しかめっ面を作り、「仕事でもごめんだぜ」と言って、荒々しく後頭部を掻いていた。

 さすがにそこまで鈍感じゃないから、おれは調教の意味を察する。おおよそ、この人はおれを自分のものにして、下川那智を扱いやすい状態にしたいんだと思う。

 その過程を尻込みしている、といったところかな。

 やっぱりおれにとって全然良い話じゃないね。

「お前さ、兄貴とセックスしてんのか?」

 鳥井さんから解放されたおれは、おにぎりを拾いながら、投げられた質問に首を横に振る。
 どうしてそんな質問してきたのか分からないけど、鳥井さんはおれと兄さまの関係を疑っているようだ。じゃないとセックスしているのか? なんて質問してこないと思う。

 ただ、正直に否定をしても、鳥井さんはちっとも信じてくれない。絶対シているだろ、と断言されてしまう。本当にセックスとかエッチとか……そういうのはシたことないんだけどな。キスはあるけど。


「お前らがどれだけ依存し合っているのかは、こっちで調査済みだ。キショイくれぇべったりだろ」


 キショイ、か。

 鳥井さんにはおれ達の生きる世界がそう見えるのかな。
 おれも兄さまも、ただただ二人で生きようとしているだけなのに。二人で力を合わせて、がんばって生きようと、しあわせになろうとしているだけなのに。キショイなんて言われる筋合いはないよ。

 おれは鳥井さんに返事するために、何か書くものはないか、と動作で尋ねた。
 レシートを数枚手渡されたから、おれはその裏に疑問を投げつけた。

『あなたは、他人とセックスをしたことあるの?』

 肯定の返事をもらうと、それはどうして? と尋ねた。