「兄貴のあんたとは話せているんだから、よっぽど那智くんはあんたのことを信頼しているのね」
「んだよ。文句あるか?」
「べつに? ただあんたのド変態なブラコン心が喜んでいそうだと思っただけ」
「よく分かっているじゃねえか」
「げっ、皮肉に喜んでいるし」
「那智相手なら、どう言われようと構わねえよ。俺はあいつを丸ごと欲しているわけだしな」

 それは兄として、家族として、血の繋がりを持つ者として。
 弟相手に欲情しているといえば、まあ、そう言わざるを得ない時もあるしな。
 それは性的ではなく、本能的な欲情。兄として弟の存在・愛情・命が丸ごと欲しい。支配したい。束縛したい。そうすればあいつは永遠に俺の傍で生き続ける。ふたりだけの世界から離れていくことはないのだから。思った傍から欲しくなってきた、那智が欲しいな。すごく欲しい。
 ああ、最近、本当にその想いが強くなってきた。

 惜しみなく本心を曝け出すと、福島が露骨に引いていた。

「あんた……まじで歪んでいるわよ」
「くくっ。そりゃ光栄なこった」
「弟を可愛がるってレベルじゃないんだけど」
「世間の基準なんて知らねえよ。俺なりに那智を可愛がっているだけだ」
「まさか、あんたじつの弟に手を出したなんてこと」

「――さあな? ご想像にお任せする」

 含み笑いを浮かべる俺に、ますます険しい顔を作る福島は「アタマ痛くなってきた」とこめかみをさすり、早々に話題を打ち切った。
 まともに話すだけばかを見るのは自分だと思ったようだ。
 なんだよ。もうちっと聞いてくれてもいいじゃねえか。喜んで素を曝け出してやるのに。

「下川、これが見積書よ」

 袋とじされている書類を差し出される。
 さっそく受け取って中身を確認するも、俺は書類の題名から眉を寄せてしまった。

「株式会社チェリー・チェリー・ボーイ? ずいぶんシモイ名前だな」
「アダルトグッズを売っている会社らしいわ」
「なるほどね。だからシモイ名前なのか」
「中身はアダルトグッズの見積書になっている」
「アダルトグッズの見積書?」

 福島の言うとおり、中身はアダルトグッズの見積書だった。
 商品名らしきアダルトグッズが羅列され、それぞれに値段が記載されている。
 お手頃な値段の千円台から、一万超える物まで載っている。何の変哲もない見積書だ。親父のストレス発散のための道具類だと言われたら、それで終わりだが……俺は見積書の後半部分に違和感を覚えた。

 商品名の隣に記載されている値段の桁がおかしい。
 最高でも一万円台だったアダルトグッズの値段が、後半から百万円台になっている。
 個数こそ載っていないが平然と三百万円、五百万円と商品名の隣に金額が記されている。

 合計金額はおおよそ『12,000,000』。

 個人でアダルトグッズを購入するにしても、遥か度の超えた金額だ。専門店でも開きたかったのか? あのクソ親父は。

 見積書をめくると、なんと驚き。
 俺達の住んでいるアパートの住所や俺や那智の性別、年齢、身分、性格、通っている学校名が載っていた。ページをめくっていくと、俺や那智の一日の行動が事細かに綴られている。実家の電話番号も載っているようだ。親父の手帳でも見た内容だ。