家元の寵愛≪壱≫



一瞬にして再び痛み出す胸の奥。

考えたくも無いし、思い出したくも無いのに。


それでも知ってしまった現実からは逃れられない。


隼斗さんが迎えに来てくれたというだけで

本当は全てを忘れて許そうと思っていたのに、

どうしても拭い切れない思いが込み上げて来た。



「ん?………ゆの、どうかしたか?」


ハンドルを握る彼が、不意に声を掛けて来た。


私が膝の上でギュッと手を握りしめているから……。



「いえ、何でもありません」

「そうか?」

「はい。………これから、どこへ行くんですか?」

「ん?………とりあえず、ちょこっと買物をして、その後は………着いてからのお楽しみ?」

「へ?」


隼斗さんはちょっと悪戯っぽく微笑んだ。

何やらサプライズでもあるのかしら?



結婚記念日

ホワイトデー

隼斗さんの誕生日


この半月の間に祝う予定だったイベントが目白押し。

きっと、彼なりに考えている事があるのだろう。


………私も、少なからず準備して来たしね?