家元の寵愛≪壱≫



腕時計で時間を確認すると、9時50分。

約束の時間の10分前に到着した。


俺はゆっくり瞼を閉じて深呼吸した。

そして、助手席に乗せて置いた菓子折りを手にし、

ドアを開けると――――――。


「ッ?!…………ゆの」


ドアのすぐ横に彼女が立っていた。


「エンジン音が聴こえたので……」

「………そうか」


彼女はグレーのニットワンピ姿で俺をじっと見据えていた。

その瞳は、俺に対して怯えているようにも見える。


『迎えに行く』と言っておきながら、

俺からは一切連絡を絶っていたし、

実際の所、今の俺のテンションから察して

状況を把握しようと必死なのだろう。


そんな彼女がとても不憫に思えて、

そして、言葉に出来ない程に愛おしいと感じた。



離れて過ごしていても、

俺への愛情は消えていないのだと感じたから。



俺は手にした菓子折りをボンネットの上に置き、

彼女の方へ向き直った。


そして―――――…………