家元の寵愛≪壱≫



私はお義母様のもとへ。


お台所へと着くと、数人のお手伝いさんと共に

お義母様が割烹着姿で料理をしている。


「おはようございます。遅くなり申し訳ありません」


足早にその輪の中へ足を踏み入れると


「あら、もっとゆっくりしてて良かったのに」


相変わらず、優しい笑顔のお母様。


「左様にございますよ。これは私共の仕事ですから」


小鉢に和え物を盛りつけている牧さんが

同じように優しい笑顔で……。


「お弟子さん達でさえ、こんな朝早くから手伝っているのに、家元の妻がのうのうと布団に包まっていられませんよ」

「フフッ、ゆのちゃんらしいわね」


私はお義母様とお揃いの割烹着を着て、

盛りつけられた小鉢を宗和膳(脚付膳)に。


母屋にいるお弟子さん達は、

香心流の中でも核となる人達。

……家族同然に。


藤堂家では、初釜の日の朝食は

主力メンバーの弟子達を交えて

母屋の奥座敷にて戴く習わしのようで……。