家元の寵愛≪壱≫



母屋の玄関には大量の草履が。

決して狭くない藤堂家の玄関。

そこに、所狭しと草履がズラリ。

さらに、まだ明けぬ前から

和服姿の人が慌ただしく廊下を行き交う。


「あっ!!家元夫人、おはようございます」

「おはっようございます」


玄関の土間に立ち尽くす私に気付き、

弟子の静乃さんが声を掛けて来た。


「明けましておめどうございます。本年も宜しくお願い致します」

「「明けましておめでとうございます」」

「明けましておめでとうございます。こちらこそ、何卒宜しくお願い致します」


さすが、静乃さん。

彼女が足を止め、私へ挨拶したものだから

周りのお弟子さん達が一斉に足を止めた。


しかも、見事にハマるような挨拶を。

ホント、香心流は彼女に支えて貰っていると言っても過言ではない。


「家元でしたら、奥の茶室に」

「いえ、私はお義母様のもとへ…」

「左様でございますか。では、私共は…」


一斉に深々お辞儀をする彼女ら。

私より、遥かに年上の方々なのに…。