短志緒


「梨香って、すげーイイ女だな」

「今さら気付いたの?」

健吾は笑って誤魔化す。

「彼女ができてもさ、見劣りするんだよ」

「あたしと比べるからじゃん」

私は自他ともに認める美少女。

もちろんごく親しい友人にしか、そう思っていることは口に出さないが。

健吾の大きくて温かい手が、私の長い髪に触れた。

ひと束つまんで感触を楽しむ。

ゾクゾクする。

髪にも神経が通ってるみたい。

「健吾」

「梨香」

声が重なり、数秒間沈黙する。

チビだったはずの健吾から放たれる色気。

気を抜くと恥ずかしくて笑ってしまいそうだ。

美女のプライドをかけて、色気で対抗する。

笑ったら負けだと思った。

沈黙を打破したのは、健吾のとんでもない台詞だ。

「ねぇ、キスしていい?」

そう言って、摘まんでいた私の髪に口付ける。

上目遣いは女が男に媚を売るときのようなしおらしさはなく、すごく威圧的にも見えた。

その唇が、私に触れるの?

「はぁ?」

私の唇に、触れるの?

「ダメ?」

私、触れてみたい、かも。

「いいよ」