短志緒


「俺だって、チビだった頃は梨香を見下ろす日が来るとは思わなかった」

「見下ろすとか言わないでよ」

「俺の中で梨香は母ちゃんの次に強いと思ってたのに」

「おばさんの次なんだ?」

「そう。あの人は人類最強。で、梨香が二番目」

「微妙なんですけど」

健吾は楽しそうに笑いながらペットボトルの蓋を閉め、テーブルの上に置いた。

「でも」

健吾の視線が私を捕らえる。

今までとは違う光を感じてギクッとした。

「最近、なんだか女に見えてきた」

まるで身体中をぎゅっと捕まれているようだった。

息苦しい。

健吾の視線に胸が締め付けられている。

「あたし、紛れもなく女なんですけど」

「そういう意味じゃなくて」

「どういう意味よ?」

私は無意識に体を少しだけ健吾に近づけた。

近付きたかったわけではない。

詰め寄っただけのこと。

だけど健吾も同じように少しだけ寄ってきたから、程よく保っていた距離感が崩れておかしな空気が流れ始める。