だけど、中学2年生になった頃、少しばかり事情が変わってきた。
「あれ? あんた、背伸びた?」
いつも見下ろしていたはずの健吾の顔が自然な角度で見え始めたのだ。
「そりゃー伸びるさ。成長期だし」
「そういえば声も低くなった?」
「そりゃー背が伸びれば声変わりもするさ。成長期だし」
弟だったはずの健吾が男になりつつある。
まさかこんなことが起きるなんて。
「なんか生意気。健吾のくせに」
「梨香なんて、すぐ抜くよ。ていうかもう抜いてるかも」
そう言って私の頭に手を乗せる。
そのまま手をスライドさせると、彼の額の生え際に当たった。
「ほら」
「ズルしたでしょ」
「バレた?」
それから健吾が本当に私の背を追い抜くのに、そう時間はかからなかった。