短志緒


俺と彼女が乗る電車は、ここからは逆方向になる。

この駅は方向が違えばホームも違う。

「沢田くん、色々ありがとね。もう会わないと思うけど、元気でね」

もう、会わない?

「会社のみんなにもよろしく言っといて」

もう、二度と会えない?

「ああ……わかった」

わかった、じゃねーよ、俺。

気持ちを伝えるチャンス、みすみす逃してんじゃねーよ。

俺は彼女に送るはずだったそれをキュッと握った。

なかなかタイミングが掴めない。

「電車来ちゃう。行かなきゃ」

「ああ、うん」

「じゃあね。今までありがと」

彼女はくるりとターンして、そのままエスカレーターに向かった。

だんだん見えなくなっていく。

いいのか、俺。

このまま別れてしまっても。

だけどなかなか声が出せない。

諦めかけたとき、トンと誰かに背中を押された気がした。

そして、駆け出す。

周りの人の迷惑もかえりみず、閉まりかけたドアの隙間から彼女の乗った電車に飛び込んだ。