定時が過ぎてしばらくすると、

社員たちがまばらに帰り出す。

今日はなぜか思い切り不機嫌な顔をしている青木も

「じゃーな」

フンと鼻を鳴らして帰っていった。

一人、また一人と去っていき、

午後9時前には俺と彼女の二人になった。

いつかの妄想が現実になった。

さあ、どうしよう。

何て声をかけよう。

チャンスを逃してはいけない。

考えれば考えるほど深みにはまってなにも言えなくなる。

情けないにも程がある。

だけど、運命はそんな俺に味方してくれた。



「丸山くん?」



こんな風に声をかけてもらえるのなら。



俺は明日も彼女と二人になるまで残業をすることに決めた。




fin.