短志緒


彼女の声がして、頭を上げた。

俺の顔を見てとても驚いていた。

「奈々子、どうしてここに」

「啓介が、会いたいって言うから」

こんなタイミングでそんなこと暴露するなよ。

恥ずかしいじゃないか。

「だから、あたしも会いたくて」

彼女は親父の隣の席に座った。

アヤからおしぼりを受け取り、

親父と同じ表情で俺を見る。

「どうしたの?」

まだ何も知らない彼女に、もう一度伝えよう。

「結婚しよう」

「え……?」

「結婚、しよう」

意味を理解した彼女の目にも、涙が溜まっていく。

俺たちは互いの顔を見て笑った。

泣きながら笑った。

横でアヤも少し涙ぐんでいたけれど、気付かないふりをする。

そんな俺たちを見ながら、

親父はやっぱり少し不機嫌な顔で酒を飲んだ。



あれからもう1年か。