短志緒


「どうするかは奈々子が決めていい」

「うん」

「じゃあ」

電話を切って店に戻った。

親父と目が合う。

グラスが空になっていた。

「おかわり、作りますね」

「ああ」

再び濃いめのウイスキーを作る。

氷を小気味良く鳴らし、空いたグラスと交換する。

彼女は来るだろうか。

来ないだろうか。

それ以降しばらく、親父は何も喋らなかった。

俺は様子をうかがいながらグラスを洗ったり、拭いたり、帰っていく客に挨拶をしたり、

そしてたまにガラス製の扉の向こうへ視線を向けたりした。

ジャズの音色と共に時間はゆったり流れていった。



「啓介くん」