「もしもし?」
2コール目で電話に出た彼女の声は、どことなく浮かない声だった。
「俺」
「うん」
「親父さん、来てる」
「うん、知ってる」
どうしてそんな声を出すのか。
声を聞いて安心したかったのに、不安は膨らみ続けるばかり。
「来ないの?」
「お父さんが、来るなって」
本当に聞き分けの良い娘だ。
その調子で説得に応じたのか?
首を縦に振ったのか?
「奈々子」
こんなことカッコ悪くて聞けないけれど、
俺と親父、どっちが大事?
「なに?」
「会いたい」
「え?」
「今すごく会いたい」
彼女は困惑していた。
来いと言う俺、来るなと言った親父。
間に挟まれて悩んでいる。



