彼は私を彩子ちゃんと呼ぶ。
私は彼を俊輔と呼ぶ。
私たちは同じ大学の同じ教育学部に所属している。
学科は違うが、共通の講義で知り合った。
その講義で席の近かった男女数名で飲み仲間になったのだが、俊輔もそのメンバーのひとりである。
最初は印象が薄かったのだが、みんなと交友関係が深まるにつれ、俊輔のヘタレさが露呈していった。
だけどそんな彼を、なぜか放っておけない。
仕方ないやつだなぁと、つい世話を焼いてしまう。
彼には、私に限らず、人にそう思わせる才能があるのだ。
俊輔に連れてこられたのは、学内の人気のない広場だった。
「どうしたの? こんなところまで来て」
「あ……うん」
さっきまで真面目な顔をしていた俊輔は、急にモジモジし始めた。
俊輔は困ったとき、私を頼ることが多い。
私が世話焼きだから、頼みやすいのだろう。
だから今日もどうせ、千円貸してほしいとかレポートコピペさせてほしいとか、くだらない頼み事を吹っ掛けてくるのだろう。
この時は、そう思っていた。
しかし、俊輔は思いもよらない言葉を口にした。
「俺、彩子ちゃんのことが好き。付き合ってください」