この男は、パソコンが苦手だ。
「ねぇ、これってどうやったら文字の大きさ揃えられるんだっけ?」
この男は、辛いものも苦手だ。
「このカレー辛いよ。誰か飯交換して」
この男は、ホラー映画が苦手だ。
「ギャー! やめてー! ストップ! いったんストップ!」
この男は、金の管理も苦手だ。
「やべぇ! 俺今財布に500円しか入ってないんだった」
気は優しいけれど、とにかく頼りない。
ヘタレの代名詞のような男。
そんな印象しかない友人、市川俊輔に、私佐々木彩子はたった今、肩を叩かれた。
「彩子ちゃん……ちょっといい?」
いつもヘラヘラしている彼が、珍しく真面目な顔をしている。
大学の講義も終わったし、バイトの時間まではまだ時間がある。
「いいけど」
私は頷き、俊輔についていった。