真奈美が越してきたのを機に、何も置いていなかったダイニングに、テーブルセットを置いた。
その日の最初の晩餐が今、並べられている。
白飯、味噌汁、肉じゃが、根菜の煮物。
「なんか、地味じゃね?」
全体的に、茶色が多い。
こういう時って、女はもっと華やかな料理を作りたがるものじゃないのか。
ハンバーグとか、オムライスとか、色鮮やかで子供が好きそうなやつ。
「うるさいなー。今日の占いメールに、ラッキーアイテムは和食だって書いてあったんだもん」
ラッキーアイテム……。
「そのメール、まだ受信してたのか」
「いいからもう食べようよ」
「あー、うん。いただきます」
正直、あまり美味そうではない。
肉じゃがはジャガイモが崩れているし、煮物はなんというか、茶色というより黒い。
真奈美は心配そうな顔で俺が食う様を見つめている。
大丈夫。
不味かったときのツッコミの言葉は、すでに考えてある。
先に肉じゃがを一口。
「ん?」
それはなんとも、意外な味がした。
黒い煮物も勇気を出して、一口。
「んんっ?」
俺の微妙な反応に、不安げな真奈美がしびれを切らす。
「もう! 文句があるならはっきり言ってよ」
俺はここで一度白飯と味噌汁を挟んで、もう一口ずつ肉じゃがと煮物を食べた。
「なんだこれ。すげーうまい」
驚いた。
見た目こそ良くないが、味はもう、百点満点。
黒くてビビっていた煮物など、程よく甘さもあり、芯まで味が染みていて絶品だ。