短志緒


解放してやると、真奈美は持っていた服を捨て、一目散にベッドへ戻り、掛け布団を全身に巻き付け丸まった。

「頑張ってるってもしかして……料理?」

「黙れ」

くぐもった声が聞こえるが、無視。

「俺のために、料理の練習してたのか?」

「黙れ!」

ベッドに飛び乗り、真奈美から掛け布団を剥ぐ。

真奈美は赤くなった顔を両手でがっしり隠している。

「真奈美」

呼び掛けると、手と手の間の口が動き出す。

「瑛士に好かれてないかもっていずみに相談したら、男は胃袋で掴めって言われて。私、ずっと実家暮らしでほとんどやったことなかったから、家の晩ご飯作りながらお母さんに教えてもらってて」

「うん」

「早く自信持って作れるようになりたいから、平日は毎日率先して何品も作ってた。そしたら……」

「そしたら?」

「1ヶ月で3キロも太っちゃって。こんな身体、見られるの恥ずかしくて……」

「だから俺を拒否った?」

「うん」

手首を掴み、両手を顔から離す。

赤さの落ち着いてきた顔は、照れで不細工に歪んでいた。

「自分の部屋着が欲しくない理由は?」

「瑛士の服を着られるの、カレカノっぽくて嬉しいから」

「うちに化粧品を置きたくない理由は?」

「瑛士と付き合い始めて、まあその、やっぱ少しでもキレイに見られたいじゃん? だから基礎化粧品のグレード上げたの。こんなの、値段的に何本も買えないもん……」

なんだよ、それ。

俺の不満、全部全部、俺が好きだからじゃんか。