短志緒


寄り添うつもりがないのなら、無理して付き合う必要はない。

俺も辛い。

いや、俺が辛い。

こんな気持ちになるくらいなら、前のように寂しさを埋め合う関係の方がマシだ。

急に視界が暗くなった、次の瞬間。

「ぶっ!」

顔面に何かがガツンとぶつかった。

痛みはあまりないが、予期せぬ衝撃に身体がよろめく。

「あんた、最っ低!!」

真奈美の怒鳴り声。

足元に枕が落ちている。

なるほど、こいつを食らったらしい。

「1回エッチしなかっただけで別れるなんて……ほんと最低っ……!」

声がだんだん震えて、最後の方は涙声。

泣きたいのはこっちの方だ。

どうしてお前が泣くんだよ。

「違う。理由はそれじゃない」

さっきの拒否が、引き金になっただけだ。

「じゃあなんで急に別れるって言うの?」

「急じゃねーし」

「わけわかんない! ムスリムがわかんなかったから?」

「ちげーよ」

「じゃあ何なの?」

「だってお前、俺のことあんまり好きじゃないだろ」

「……はぁ?」

真奈美は心底呆れた声を出し、ボロボロ涙を流し始めた。

真奈美が俺のせいで泣いている顔を見るのは、心苦しい。

けどやっぱり、泣きたいのは俺の方だ。

「だって真奈美、全然俺に会おうとしねーじゃん」

好きなんだよ。

もっと一緒にいたいんだよ。

触れ合いたいんだよ。

でも、お前も同じ気持ちじゃなきゃ意味がない。

「何言ってんの?」

「だってそうだろ。休みの前日じゃなきゃ会わないとか、部屋着いらないとか、毎回使う私物も置かなくていいとか、鍵持ってるのにここにもほとん……ぶっ!」

また枕が飛んできた。

さっきより衝撃は少なかったが、地味に痛い。

二度もクリーンヒットさせやがった。

運動神経の良さをこんなところで発揮するなよ。