無防備な寝顔。
こうして長いまつ毛を眺めるのも悪くないが、風邪を引かれるのは困る。
「おい。化粧も落とさず寝る気か?」
繋いでいる手を握ったまま振ると、パチッと目が開く。
「それはダメ、ゼッタイ」
「薬物乱用防止か」
「睡眠欲乱用防止だよ。一晩でお肌が一年分老化しちゃう! シャワー浴びてくるね」
むくっと起き上がり、自分のバッグからいつもの”お泊まりポーチ“を取り出す。
ポーチの中には基礎化粧品のボトルや、これじゃなきゃダメだという愛用のヘアトリートメントが入っている。
「なぁ、真奈美」
「なに?」
新たな活路を見出だした俺は、再び提案してみることにした。
「さっきの部屋着のこともそうだけど、化粧品とか、そのトリートメントとかさ。必要なものは買ってうちに置いとけばいいんじゃねーの」
下着とか、服とか、ここにいるのに必要なものがあれば、何でも。
希望するなら空き部屋のひとつを真奈美の部屋にしたって構わない。
真奈美はポーチを見せつけるように持ち上げた。
「ううん、いい。毎回持ってくる」
そう告げて、さっさと浴室へ行ってしまった。
マジかよ。
これ、マジで危機的状況なんじゃねーの?



