余裕をなくした俺は、
彼女の気持ちを確かめるため、
いや、
なかなか聞きたい言葉をくれない彼女を揺さぶるため、
ささやかな抵抗を始めた。
「暇だったから、来た」
微かに照れながら立っている彼女に、
少しだけ、反撃。
「俺、今忙しいんだよね」
会いたかったから来たのだと、
そう言ってくれたら、
いつもの何倍も甘やかしてあげるつもりだった。
しかし、彼女は表情をピクリとも変えずに言った。
「……そう。じゃあ帰る。またね」
そしてそのままそそくさと帰っていく。
俺は扉を開けたまましばらく後ろ姿を眺めていたが、
彼女が階段に差し掛かるまで、
一度もこちらを振り返ることはなかった。
ズキリ、胸が痛む。



