短志緒


すかさず次の酒を作る。

琥珀色の液を濃いめに。

「奈々子は昔から聞き分けの良い子だった」

ぽつりぽつり、漏らすように話し出す。

俺はそのうちの一つ足りとも聞き逃すまいと、相槌も打たずに同じ酒を口にした。

「親の言うことは黙って聞く、利口な子供だった」

カランと氷が音を立てた。

それさえも邪魔だと思うほど、

静かに語り続ける。

「だけど、二回だけ。たった二回だけ言うことを聞かなかったことがある」

「それは?」

「一回目は県外の大学を受けると言い出したとき」

その話は聞いたことがあった。

親に大反対されたけれど、どうしても独り暮らしがしたくて、何ヶ月もかけて説得したと。

「もう一回は、君と結婚したいと言い出したときだ」