X人のご主人と愉快な式神たちの話



また一つ、栗を小さな口に放り込み、吟彩はそれを咀嚼する。


「今年の秋は、くしゃみが酷うございます。
杉の木さまたちはお心がありませぬ」


えんえんと葛の葉が泣きべそをかかんばかりに嘆く。

吟彩は、それをなにを考えているのか掴めぬ眼差しで見つめている。


「……京にでもゆくか」


吟彩は言った。


「京に、で、ございますか?」

「山に籠っておっても、お前のくしゃみが酷くなるだけだろうからな。
京に降りれば、少しはおさまろう」


太い杉の幹に腰掛けていた吟彩は、すっかり乾飯(かれいい)のなくなってしまった巾着に、茹であがった栗を入れて行った。


「それに、いくら困っている貴族とはいえ、山に入ってまで、あちきに祓を頼みにきはせんだろうからな。
あちきらが、赴いてやるしかあるまい」

「吟彩さま。
私は京につくまでに、くしゃみで倒れてしまいそうでなりませぬ」

「……布をやる。
それを口に当てていろ。
さすれば木の粉は入って来まい」


懐から取り出した木綿を葛の葉に手渡し、吟彩は天狗の頭巾をかぶり直した。