* * *


「雅晴ー、どこですかあ」

 鬼門家に居候している幽霊、もとい雅晴の兄同然のそいつが、青白い手で朝食を運んできた。


「兄ちゃん、ここだよここ」


 昨晩の一戦で体中を痛めた雅晴は学校を欠席し、うなりながら布団に潜り込んでいるのだった。

「昨晩はお疲れ様です。私も応戦したかったのですが……」

「いいやいいや、来たら絶対に、女もろとも、兄さんもあの世行きだぜえ」

「はうっ」

 兄はうめくや、肩を落として失笑し、

「じゃあ、朝餉はここに置いておきますね」

「あいよ」

「あっ、それと。

学校休むからって、ゲームはしてはいけませんよ」

「わかってらあ」

 と言いつつも、先ほどまでゲーム機の本体に手を伸ばしかけていた身である。

半ば図星に思いつつ、雅晴はさっさと布団に入った。

 近所の猫とじゃれに行った亡者兄の背中を見ながら、朝餉に手を伸ばそうとして、

雅晴は腹と腕の外部からの痛みに顔を歪めた。


「あいてて」

「おや、もしかするとまだ痛むのですか?」

「あったりめえよ」

 兵士の問いに、雅晴は低い声で答える。

すると、兵士は何を考えてなのか、雅晴の背の上にのしかかった。

「あいででで!」

「おやあ、やっぱり痛むのですか」

「おめえ絶対にわざとだろぉぉ!

降りろぉぉ!主を殺す気かおめえは!」

「動いてはなりませんよ、ほら、朝餉は大嫌いなパンとココアでございます。

苦手克服」

「おーい、これって新手のどSプレイですかい」

 慌てて布団にもぐった雅晴を引っ張り出し、兵士は湯気を上げるココアに浸したパンを、

雅晴の口に近づけた。

「はい、アー・・・・・」

「ふざっけんじゃねえぞ、溶岩をその口に突っ込んでやろうか」

「あらあら、利き手がいかれてるくせに朝餉が喰えるのですか」

「絶食する」

「はい、口をオープンしてくださいまし」

 言いつつも無理矢理に主の口をこじ開け、あつあつのパンをその口に放り込んだ。

「ぎゃああい!」

「おいしいでしょう」

「あのー、熱でほとんど味しなかったんですけど」

 痛む舌を口内で包み、雅晴は、

「こういう甘ったるいのは、人間が喰うものだ」

「主様は人間でしょうに」

「あのな、法師陰陽師ってのは破落戸とも言われてたがよ、その性質はどちらかというと妖怪なのさ。

だからその血を継ぐあたしも、妖怪だ。

だからよ、妖怪を差別的に調伏することはねえさ」

「へえ」

「わかったろ」

「半分聞いてませんでした。

はい、もう一口」

 白目をむいてあんぐりを口を開く雅晴の口に、容赦なくパンは放り込まれた。


   終わり