兵士はわずかに、動揺の色を見せた。
沖縄の古戦場にて、日本兵の怨霊と共に彷徨うしかなかった己らのことを言っているように思えた兵士は、
気を紛らわそうとしきりにグランドパンツァーを撫でる。
「言わないでおくんなし、主様」
「なあ、兵士よ」
「黙っておくんなし!」
兵士の悲鳴と共に、パンツァーが悲痛な金属音を立てる。
―ああ……。
こいつも、きっと思い出している。
この日本国というこの国に連れてこられ、
戦死を余儀なくされた―――戦車として壊れるまで使われることを余儀なくされた時のこと、
たくさんの日本人が死に、その犠牲よりは少ないが、
おのれも、仲間も死んだのだ。
そして戦時が終わり、このパンツァーのもととなった戦車も、兵器として死んだのである。
「悲しく終わった人生をよ、一度塗り替えようぜえ……」
「――――」
「塗り替えて、真っ白の素っ裸になってよ、悪くしたらまた人間界っつう腐った世界に降り立つ。
降り立つことになっちまうかもしれねえけど、よお。
今度こそ、前世でできなかったことができるかもしれねえのよ。
それすら叶わねえまま、悲しみながら彷徨うなんて、
さすがのあたしでも、胸が痛むぜえ」
わ。
兵士は必死にパンツァーの車体を撫でながら、声を出すのだった。
「私も、ですか」
「ああ……?」
「私も、式神になって塗り替えられましたか」
「……おめえも、すでに真っ白なペンキまみれだよ」
訳の分からぬ台詞であった。
そんな台詞であるのに、兵士はなぜだかほっとしているようだった。
「……私たちは、どこでも狙い打ちます」
「おうよっ、ガンガン撃て。
蜂の巣になって、空っぽにして―――あいつの人生、白いペンキまみれにしてやろうぜえ!」
雅晴は外縛印を結び、拳をパンツァーの車体に押し付けた。
「怨心浄破法!」
ぎゅるり、がしゃん―――と、グランドパンツァーが絡繰りの歯車が回る音を立てた。
「あいつが塗り替える気がねえのなら―――あたしがペンキをぶっかけてやらあ」
―――撃て!
兵士の指示に、今度こそパンツァーは命令通りの方向へ砲撃した。
銃口から、先ほどよりも真っ黒に、雅晴の方術の呪力を受けてくすんだ弾丸が放たれる。
露の如く消えて再び姿をくらます女。
行かすものか、と雅晴がパンツァーから飛び降りる。


