女の金切り声が雅晴の耳をつんざいた。
雅晴は怯まず身をかがめ、首にかけていた数珠玉を女の首に引っさげる。
「パンツァー、ひとまずやめろい」
がちゃりと機銃の銃口を構えたパンツァーに指示をだし、そろりと女に目をやるのだった。
「……いつの時代になっても、女ってのは捨てられる側になっちまうのかよ」
ちっ。
雅晴は悪態をつく。
死んだ女が怨霊となる理由は、大体予想がつく。
「どこぞの男に捨てられたんだろうよ。
そりゃあ男のほうが悪いに決まってるよなあ……。
それなのに、おめえの死後も、誰もが自殺したおめえを非難したんだろう。
おめえの物言いからしてな」
自殺したほうが悪い。
引っかかったほうが悪い。
生きる者どもはそう女を批判するが、男に捨てられた女の悲しみの―――何がわかるか。
分かるはずもなかろう。
「あたしゃおめえを非難しねえ。
だがよお、さすがに暴れられちゃあ困るぜえ。
できれば……」
普段の雅晴にすれば温厚なやり方だった。
しかし、である。
「ぐおうっ」
髪の塊が、重くその腹と、右手の腕にのめりこんだ。
「主様っ!」
グランドパンツァーが雅晴の元まで疾走し、兵士が雅晴を掬い上げる。
「くくく、体脂肪が防御になった」
「笑い事ではありません」
「なあパンツァーよ、おめえら、逃げ足早くなったなあ。
見ろよあれ、幽霊も追いつけねえ」
グランドパンツァー―――直訳すると『庭の豹』ということになるが、聞こえはまるで、
大地を駆ける豹の如くである。
「主様、息も絶え絶えではありませんか」
「そりゃあ、腹のついでに腕もやられたからよ。
ああ、これじゃあ和解はできそうにねえや」
「普段の雅晴様であれば、真っ先に乱暴に調伏するではありませんかよ」
「ばっかろうめえ」
くっ、と。
雅晴は何気に懸念してくれている兵士に向かって引き攣った笑みを見せたのだった。
「何にも悪いことしてねえのによ、苦しみながらこの世を彷徨うなんて、それこそ生き地獄ねえ。
なあ、兵士よ。
悲しみに埋もれてさまようのは、なんだか痛いぜえ」


