おやっ、この兵士はヤンデレ萌えなのかよ、と雅晴はまた新たな兵士の秘密を発見する。
ツンデレもヤンデレも人間なのになあ、どうしてそこで分かれ道ができるのかねえ。
鬼門雅晴にはそれが理解しがたかった。
悪いが、雅晴の頭はいくら方術を詰め込むことができても、
そう言った知識は頭に入らぬように出来ている。
「なあ兵士よ、UNOでもしようぜえ……」
「いきなり襲いかかられたら終わりになりますがねえ」
「ああ、もしかすると、そういうプレイが好きな怨霊なのかもしれねえなあ」
彼らの会話はていたらくでかつ破廉恥極まりない。
「腹も減ってきたし、怨霊も来ねえし。ああ、おやきでも持ってこりゃあよかったぜえ」
「私はクッキーのほうがいいです」
「何言ってんだ、あんな西洋かぶれで甘いもんなんか食えるかよ。
あんなものを口に入れるなんて、あたしゃ、嫌だぜえ……」
言いかけ、雅晴は、その体に似合わず俊敏な動きで上を見た。
木が、ざわざわと葉擦れの音をせわしなく立てて、動揺しているのである。
「おおう……」
野太い、女の声がそこらに木霊した。
「来たぜえ、グランドパンツァーよ」
「おおおん、おおおおん……」
べしゃり―――――。
「げえ」
雅晴は、眼前に落下したものを見るや嫌悪感を抱いた。
朱いものに濡れた、ぬるぬるの黒髪である。
女の慟哭が、地を揺るがしている。
「―――己の髪を引っこ抜いたかよ」
ひょい、と己の頭上に落下した髪をよけ、雅晴は錫杖を構えた。
そして剣印を結んだ手の指先を、数メートル先の見えぬ影に向ける。
「欲向見鬼、呪時人不……」
「主様!」
むう!?
雅晴が瞠若した刹那、地に落ちていたはずの髪の塊の一つが、その丸い顔に飛来した。
「ぐおっ」
声を上げる。
髪の毛が粘着質の液体のように顔に張り付く。
《わたくしに近寄らないでちょうだいな》
むぐぐぐ、と力任せに髪を引っ張る雅晴の耳に、艶めかしい女の声が轟いた。
先ほど、数メートル先にたたずんでいた―――髪の無い、眼球の無き女である。


