兵士は至って飄々とした風情である。
斜め横に並ぶ二人は、シルエットだけで見れば少年のようだった。
「髪の毛が落ちてくる、との話にございましたね」
「特に長い黒髪ってのは怨念って名の呪力が籠りやすいからなあ……。
その印象が強くなったのは平安時代からかねえ、
藁人形の中に髪の毛を詰めたりしてよ、相手の不幸を一心に願うんだ。
一生懸命だねえ、くっくっくっ……」
やはり、雅晴は性悪である。
雅で晴れると書いて雅晴であるはずなのに、この少女法師ときたら
―――狡猾で曇天の色の穢れた心の持ち主だ。
人の不幸というものが、もっと言ってしまえば、特に気に入らない人間の不幸が面白くて仕方がない。
携帯小説を買ったと思えば、主人公の少女が災難に遭うシーンしか見ない。
酷い性格だ。
可愛くて、最終的には幸せが待ち受けている、そんな幸せ者の主人公の不幸が、
雅晴にとってはこの上ない快感なのだった。
そんな主の下に、どうしてこの兵士とグランドパンツァーは下っているのだろうか。
式神とてただ従うのみの機械ではない。
命があって心がある。
もしそれらが死するときがあれば、それは創造主である主が死んだときであって、
自ら逃げ出すこともできよう。
―――それをしないとなれば、やはりこの鬼門法師にも、なにか魅入られるものがあるのだろう。
「ようし、行こうぜえ」
「あいさあ」
風は、吹くことはなかった。


