当然のことながら、妖かしの類も出るであろう。
逆に人の多いほうには、怨霊が出やすい。
人の世とはそれだけ怨念に乱れ、怨霊を生み出している。
むしろ妖かしのほうが性質がいい。
おそらく、この吉名が使われている大店を悩ませているのは、妖かしの類だろう。
「で、なにがあったんでえ」
「おうおう、それを言いに来たんだった」
《この娘、七衛門と似た者同士ではないか》
朧蓋翁が言うた刹那、吉名が大きな耳をぴくりを動かした。
目を瞬き、蚊でもいるのかとばかりにあたりを一瞥する。
―なんか、誰か何か言ってなかったか。
この朧蓋翁、人外なるものと言えど、存在せぬものではない。
だから気配は必ずある。
姿見えずとも、幾人かの人間は気配だけでも感受できるだろう。
―おい、この娘っこ、おめえさんの気配を感じてやがるぜ。
《そのようじゃな》
自分ほどのものが人間如きに気配を察されたのが気にくわぬのか、
それともこの娘のように妖かしを感ずる者が、平安の世より増えてきて不思議なのか、
珍しく朧蓋翁は渋い顔をした。
「顔・・・でえ」
「顔だと」
「でけえ顔よ。絵草子に見るような牛車の車輪に顔がついてるやつ、みたいなさ。
顔はあるくせに体はねえ。色白のお歯黒を塗った目の細い女でよう、
顔があちきの身の丈ほどもあるんでえ、奇怪なもんだ」
吉名は自分の足元に手を置き、一気に自分の頭のてっぺんまで手を上げた。
それくらいの大きさだ、と言っているのだろう。
「それが、どうしたんで。
悪いが、何もしてねえ妖かしを斬るなんつう弱い者いじめのようなこたあ、したくねえからよ」
一瞬、七衛門の瞳が真摯に煌めいた。
「うちの番頭、病弱でよう。仕事はできる癖に気もよわっちいからかねえ、
妖かしってば、番頭ばかりを脅かしに来るんだ。
店の中だろう、町のすみっこだろう、お参りにやってきた神社にだって、
なんのそので脅かしにきやがるんだぜ。
もう、番頭ってばやせ細っちまってよ、こっちも仕事にならねえのよ」
「確かになあ」
「あんたに妖かしを斬れなんて言わねえ、人を食ったわけじゃねえからよ。
だが、これ以上はこっちにも迷惑だ。
なあ、あんたの力で妖かしを追っ払ってくれよ。
それで、もう二度と店に悪さしねえように言ってくれりゃいいんだ」


