白髪白髭、その御髪は驚くほどに長いが、それに劣らぬほど髭も長い。
彼の癖なのか、その髭をせわしなく、くいくいとくゆらせている。
袖の長い法衣を身に纏っているのを見ると、絵草子にて描かれるような、今は昔の唐という国より
山に住み雲に乗る道士――仙人とやらに似ている。
この翁、人外なるものである。
名を、朧蓋翁(おぼろがいおう)という。
一見飄々としているように見えがちだが、その翁の言葉は実にとげの如し。
蕎麦を食い終えた七衛門は、細い腕を伸ばして大欠伸をかますのだった。
「一昨日はかなり呪力を使っちまったぜ、眠いったらありゃありねえ」
《今のうちに寝ておけ、夜に居眠りなどされたらたまらぬ》
「おいおい蓋翁よう、俺が戦ってる最中に居眠りをするなんて言うどじをやらかすわけがねえだろう」
《やらかしかねぬそなただから言うのだ》
ぐさり、と大きな棘が七衛門の胸を貫いた、ような気がした。
江戸の町を染めるわずかばかりの蜜柑色は、次第に曇りなき宵の空となるだろう。
夜に働くものとあらば、昼のうちに体力を温存できるようにしておかねばなるまい。
しかしこの七衛門ときたら、日の明るいうちから蕎麦をすすっている始末である。
「おや?」
今にも崩れんばかりの襤褸の店に着いた。
何代前からかは分からぬが、こここそ七衛門の一族が営む、妖かし祓いの店である。