きのこうどん

「ハンバーグ！ハンバーグ！」

自作の歌を口ずさむ実の様子を見ているとイライラが募る。
歯を何度もかみしめてしまう。

そんな自分をごまかそうと何度も水を飲む。すると、

「すいません。日替わり定食材料を切らしてしまいまして…。」

さっきの店員さんが慌ててやってきた。

「簡単に食べれるものでえっと…」

そう言いながらメニューを開く。

探す間もなく目に飛び込んだものを注文した。

「これ。」

それは、昔爺ちゃんが食べてた。うどんだった。
一番早く出てくるんだぞ。
そう言っておいしそうに食べてたことを思い出す。

「きのこうどんですね。かしこまりました。」

店員さんが何度も頭を下げ仕事に戻った。

「お前、腹減らないのか？」

父がボクに言う。

「だってもう遅いよ？」

「まぁ、そうだが。しばらく精進料理を食うんだから肉を食っておけば？」

誰もが知っているが口に出さないことをこの人は平気で言う。
父のそんなところがボクは大嫌いだった。

「お前の爺さんはもうすぐ死ぬ」

そう言われた気がして胸に突き刺さる。
それは母も同じだったようで、

「もう無理。行くわ。」

普段そんなこと言わない温和な彼女らしからぬ行動に出る始末。

「え？行くって連絡きたの？」

「来てないけどここにいても仕方ないから行くわ。」

「注文したご飯どうするの？」

「実かアキが食べれるでしょ？」

近くのコンビニでおにぎりを買ってくると言い残し店を出てしまった。

「あんな母さん始めてみた。」

そう呟くと、父は

「もうちょっとで、おいしいご飯が食べれるのになぁ。」

そう言って笑った。

「ねぇ、ハンバーグまだぁ～？」

うちの愚弟は相変わらず、ご飯の心配ばかりしてるし。もううんざりする。