風船がはじけたみたいに。
俺の声に、星治が笑う。ニカッと、弾ける。
…その瞬間を、俺はよく知っていて。
こみ上げてくる何かが、目の奥を押す。
ゲーセンにいるときのこもった空気が苦しいのとは、違った種類の苦しさ。
空気が澄みすぎているせいでの、苦しさだった。
「…外、寒いのな」
「……ああ」
「夏だしって思ってたけど、風呂上がりに夜の外って、やっぱ冷えるわ」
笑う星治。
Tシャツから飛び出た二本の腕は、さすが野球部というか、丁寧に鍛えられていて。
懐かしさの中に、知らない、更新されたものも混じっていて、頭が混乱する。
典型的な爽やか青年だな、なんて、思った。
昔はこんな風に、揶揄するように見なかったのに。そんな自分に、少し苦笑して。
お互いに並んで、夜空を見上げながら、しばらく黙っていた。
意識したわけではなかったが、俺たちはそれぞれ、ベランダの柵の左と右。ちゃんと、昔の定位置に収まっていた。
空は高かった。
黒一色なのに、どうしてか、それがちゃんとわかる。
今日の空は、とくに高い気がした。手を伸ばす気持ちも起こらないほど、ずっと遠くにあるように感じた。
星治が、一つ息を吐いた。
星治は、今日の放課後のことを何も、聞かなかった。



