清らかな星の朝


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──夏の夜は、好きだ。


誰が言ったセリフだったか。どこかのドラマで聞いたような気もするし、クラスメートの誰かがたわむれで放った言葉の一つだったかもしれない。

夏の夜、とか。

冬の、コタツでのアイス、とか。

人間はみんな、寒いのと熱いのが同じ場面に出くわした、ギャップの集結体みたいなのが好きなんだろうか。

そんな難しいこと考えなくても、気持ちいいもんは気持ちいいし、美味しいもんは美味しいのだけれど。


ガラリと、乾いた音が耳に滑り込む。

風呂上がりの、湿った指先が触れた、透明なガラス。

久々に出た夜のベランダは、なんて言うか、そのままだった。


「…涼し……」


ゆるい風が、頬に触れる。

俺を拒否するでもなく、歓迎するわけでもなく、ただ受け入れる場所。

はげた塗装の手すり。転がっているバケツ。

バネがゆるんでしまって効力をなさない、いくつかの洗濯バサミ。サンダル。

健康サンダルのツボ押しの、デコボコしま部分にはホコリがたまっていて、足の裏をこそばゆくする。