わたし、こっそり見てたんだよ。
宝田は言う。後ろにいるから見えないけれど、きっと、少し悪戯っぽくはにかんだ表情で。
「朝海くんは、知らなかったかもしれないけど」
昔を愛おしむような、懐かしむような声が、続ける。
「…私、二人がね。並んで、話して……笑ってるの。見るのが、好きだった」
…好きだった。
もうなくなってしまったものを惜しむように、その声は淡く滲んで、流れる。
セピア色を背負って記憶の中に戻ってくる、一年の最初の光景。
混雑した教室。たいていが顔を合わせたばかりのメンバーの中で、まだよそよそしい会話。
その中で、俺は星治と席を向かい合わせて、バカみたいに笑っていて。
「…私ね。付き合うことになるまで、本郷くんのこと、知らなかったの。ううん、知ってたけど…でも、知らなかった」
「………」
「一緒に帰るようになって初めて、本郷くんが本当はどんな男の子なのか、知っていった気がするの」
まるで幼子に本を読み聞かせるような優しい口調で、宝田は話し続けた。
優しいところ。
人一倍、努力家なところ。
自分のことより、人のことを考えすぎてしまうところ。考えすぎるけど、あまりそれが、周りに伝わらないところ。
照れ屋で、実は子供っぽいところ。負けん気が強いところ。



