一度だけ振り返ったのは、確認するためだった。
宝田が後ろにいるということと、自分たち以外の他に、誰かを見つけることで、証明したかったのかもしれない。
これが、ちゃんと現実だって。
一度だけ。
学校を完全に後ろ背にする前に、ふと見やった、グラウンド。
そこに見つけた人影に、大きな鼓動が、一度、鳴った。
(────星治)
視線の先には、練習着姿の、星治の影があった。
野球部員はたくさんいるから、本当に星治かはわからない。でも、そんな気がした。そうだと思った。
ずっと遠く離れた距離。
…なのになぜか、目が合った気がした。
どうしようという気持ちは、起こらなかった。
見られていたらどうしよう、じゃない。それとは逆だった。
…見ていてほしかった。
なんて言い表していいのかわからない。でも、傷つけばいいと思った。
湧き上がったのは、すごく意地の悪い、どうしようもない気持ちだった。
スピードに乗っていく、車輪。
遠ざかっていく、学校。グラウンド。
景色が流れる。見慣れたものなのか、そうでないのか、わからない。
自分の体温ではない熱が、肩より少し下に触れている。
そこから、熱は昇って、全身を満たして。
宝田が、後ろにいる。
そんな信じられない出来事が、今起こっている。



