「雪乃さんかい」
そう声をかけると、女性は足を速めて和哉に近づき、
「ああ先生、ご無事でしたのね…」
と和哉の手を取った。
雪乃の手は驚くほど冷たく、火照った和哉の熱を冷ます。
「無事って何だい。僕のほうこそ、市哉にあなたが大変だと聞いて…」
その手を握り返し、和哉は早口に言った。
「私が?そんなの変だわ。市哉さん、私には兄さんが大変って…」
はっとしたのは、同時だった。
そのとき雲間から満月が顔を出し、雪乃の陶器のような白肌を明るく照らした。
雪乃の目には、月明かりを背にした、精悍な和哉の顔が映った。
互いを想い、闇夜に飛び出した心が今、ひとつに重なった。
おわり