「兄さん、雪乃さんが大変だ」 和哉の弟の市哉が息を弾ませ、和哉の友人の急を知らせた。 「雪乃さんがどうしたって」 和哉は箸を置き、すでに腰を浮かせている。 「行けばわかるさ。四丁目の長屋がある通りだ」 和哉は急かされるまま、取るものも取りあえず家を飛び出した。 それを見送った市哉は、案ずる両親を前に、 「いつまでも鈍いふたりに、仕掛けてやったのさ」 と悪戯っ子の顔をした。