そして私の初出勤は無事に終わった。

慣れないことばかりだけど、迷惑かけないようにしっかりやらなきゃ。


「はい、麻耶ちゃん」

帰り際、鉄さんが私に一枚の茶封筒を渡してきた。


「なんですか?」

「今日働いた給料。本当は口座振り込みだけど麻耶ちゃん通帳ないから」


私の給料?でも給料日はもっと先のはずじゃ……。色々と考えていると、鉄さんは無理やり封筒を私の手に握らせる。


「お金ぜんぜん持ってねーんだろ?ある程度貯まるまでは日払いで渡してやるよ」

鉄さんはわざと乱暴な言い方をして、照れているみたい。


「ありがとう。鉄さん」

私はお金の入った封筒をギュッと握りしめた。

もうサクに甘えたくないって思ってたから、これで少しは生活できるようになる。


「帰り送ってやろーか?」

鉄さんの言葉に私はゆっくりと首を横に振った。


「大丈夫です。帰りは歩いて帰ります」

だって今は黄昏時(たそがれどき)。サクの歌を口ずさみながら歩きたい気分だから。


「そっか。明日も仕事だから遅刻すんなよ?あと無駄遣いには気をつけろ」

「ふふ、はい」

子どもじゃないんだけどなあ。鉄さんってお母さんみたいなこと言うんだね。


「それから……」

「……?」

「あいつも誘ってきてよ。ライブ」

たぶん、鉄さんがライブチケットをくれたのはサクのためだったのかもしれないね。

「分かりました。誘ってみます」

私はそう言ってサンセットを後にした。