以前だったらこの決断もできなかった。でもトワイライトの演奏を聞いて、前に進む勇気をもらったから。

「……え、今なんて?」

突然のことで鉄さんが動揺していた。でも私の気持ちはもう決まっている。


「私、家に帰ろうと思って。ううん、帰らなきゃいけないんです」

口にしただけですごく怖いよ。私はあそこにいたくなくて逃げてきたんだから。地元に帰ったら知り合いにも会うし、学校にも通わなきゃいけない。

でも私には追いたい夢もないし、目標もない。

まだ17歳だから。

ちゃんと学校に通って卒業してやりたいことを見つけて。それが私のしなきゃいけないこと。


「中途半端にしたことが沢山あるんです。ちゃんとそれに向き合わなきゃ私も始まらないから」

ノラの居場所はサクや色々な人が作ってくれた。

だったから麻耶の居場所は自分で作らなきゃ。

大丈夫。もう私もひとりぼっちじゃない。


「……そっか。麻耶ちゃんが決めたなら俺は背中を押すだけだよ」

鉄さんはそう言って私の頭をポンポンと撫でた。


私はここに来てから随分泣き虫になった気がする。

でも心が暖かいのは寂しくて泣いた数より、優しさに触れて泣いた数のほうが多いからだよ。