激しい爆音は徐々に小さくなり、演奏は終わった。

マイクから静かに顔を離したサクはニコリと私を見た。


「なに泣いてるの?ノラ」

先ほどの歌声とは違い、優しい問いかけに私はハッとした。自分の頬を確認すると確かに涙が流れている。

心が追いつく前に、涙が先に溢れていた。

感動なんて言葉じゃ言い表せないぐらい。


こんなにすごい音楽を私は今独り占めしている。

それがどんなに贅沢なことか分かる?


「はあ、俺から言わせればまだまだだな。全盛期のお前の音はこんなもんじゃなかった」

それなのに尚さんは少々不満顔。

「まあまあ。一応5年のブランクがあるわけだし」

それをなだめる鉄さんはなんだか嬉しそう。


「うん。久しぶりに激しく引いたから途中で手がつりそうになったよ」

そう笑うサクの顔に私は見覚えがあった。


そうだ。前に見たスタッフルームのコルクボードの写真。それに写っていた楽しそうに笑うサクの顔が今ここにある。

これがサクの、咲嶋亮の本当の笑顔。

やっと、やっと、会えたね。