一族の村に着いた重初はするはずだった狩猟などすっかり忘れて、呑気に鼻歌を歌いながらヤタガラスの手入れをしていた。




すると間もなく、足音を隠さずドタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。





「……む?」




この平和ボケしたような呑気な自分とは対称的な慌ただしい足音の音源を耳を澄まして聴く。




どうやら自分がいる部屋へ向かっているようだ。



じきに襖が開くだろうとそこへ見やると、手前で襖越しに裸足が板間に擦れる音がした後、勢いよくそれが放たれた。





「やっぱりいらっしゃる!」




ぜいぜいと肩で息をしながら言ったのは、乳飲み子の秀実だった。





「秀実じゃねぇか」




「じゃねぇか…、じゃないですよ!重初様の言う通りにおとなしく待ってたら、いつの間にか屋敷に戻られてるなんて……」




何食わぬ顔で言い放った重初に対して、秀実は今にも零れそうな潤んだ瞳で弱々しく呟く。




襖を開けた手をそのままにしながら秀実は口を尖らせ、俯き出した。




つまり、置いてかれて拗ねたのだ。





こんな状態に陥った彼を煩わしいと感じる反面、やはり自分が守らなければと重初は思っていた。