夏の月夜と狐のいろ。



「・・・っ?」


耳がつぶれそうなほど近くで響いた轟音。
それは確かにアザリアの尾が叩き付けた音。


けれど、シアン達は死んでいなかった。


かすむ視界。そこに映ったもの。


それは、薄い膜のようなものだった。
その膜がシアンたちのいるところを覆い、それにアザリアの身体が叩きつけられていた。


アザリアがゆっくりと身体をどけ、振り返る。


「ノエル・・・!」


その視線の先にいたのは、まぎれもなくノエルだった。

ノエルの傍で、ふわふわといつもノエルが持っていた本が浮遊している。



ノエルは何やらつぶやき、声だけでぱらぱらと本をめくった。
そして、ふわっとノエルを拘束していたものが光り、砕け散る。


ノエルは立ち上がると低い声で言った。



「やめろ、今すぐに」



ノエルはふらふらとこちらに近づくと、またしても本を持つことなく魔術を発動させた。


アザリアはびゅっと飛び上がり、天井に逃げた。


龍のものである瞳が、興味深そうに赤く光る。



『わあ、すごい。めずらしい』


ノエルは何か言おうと口を開きかけるが、
ノエルが返事をする前に、すごい勢いで神父が迫る。



「すばらしい!!君が残ってくれるならばこの異端者たちを喜んで解放しますよ・・・・いや、一生かかわらない事にしてもいいでしょう!」



神父は、必死のようだ。


背をむけてしまったノエルの表情は見えず、麻痺した耳ではわずかなノエルの動きさえきこえない。



ノエルは、答える。



「・・・いいよ、俺がここに残る。約束を守ってくれるのなら」